大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所柏原支部 昭和34年(家ロ)1号 命令 1960年1月26日

申立人 大木敏子(仮名)

相手方 山下要(仮名)

主文

相手方は申立人に対し別紙調停条項第二項の慰藉料中の残額金二五、〇〇〇円を昭和三五年三月末日限り支払うこと。

理由

本件申立理由の要旨は、相手方は昭和三三年九月二六日成立した当庁昭和三三年(家イ)第一〇号離婚等調停事件において、申立人に対し慰籍料として金五万円を、内金二万円は即日、残金三万円は同年一一月二九日午前中当庁において支払う旨を約し、上記内金二万円は上記調停成立と同時にこれを支払つたが、残金三万円は上記約定の期限内は固より、その後猶予を与えた二ヶ月間内にも全く支払いをしないのみか、遂いには支払い意思のないことを表明するに至つたので、上記残額につき相手方に対する履行命令を求めるというのである。

申立人と相手方間に申立人主張のとおり調停が成立し、相手方が上記調停成立と同時にその席上において申立人に対し上記調停の定めに従い内金二万円を支払つたことは当裁判所に明白な事実であるが、相手方審問の結果によれば、相手方はその後如何なる事情によるものか心境に変化を来たし、自ら同調停において承諾した慰藉料支払いの義務を否認し、種々調停に難癖をつけ、その義務の回避を図る如き態度に出ているものであるが、その生活は、亡父山下司郎の長男として、亡父の遺産に属する約二六〇坪に及び宅地上に在る二階建納屋付き居宅に居住し、同様遺産に属する約九反二畝歩の水田と八畝余部の畑とを耕作しつつ農閑期には人夫稼ぎに従事して収入に努めている上に、同居中の母を除いては相手方の扶養を待つものは一人も居ない状況にあるため、若干の借財を負うているとするも、相手方にその意思さえあるにおいては前記慰藉料の残額を支払うことは左程困難ではないことを認めることができる。

然るところ、相手方が当裁判所における審問後の昭和三四年九月二二日に至り前記慰藉料残額三万円中の五千円を当裁判所に寄託して申立人に支払つたことは当裁判所に明らかであつて、相手方において前示の如き従来の誤つた態度に反省を加え始めるに至つた状況を窺えるに至つたことは洵に喜ぶべきことであるとともに又、当然のことでもあるので、相手方はこの際更に一層の誠意を尽し遅滞中の慰藉料残額二万五千円を申立人に支払うべきものと考えるから、相手方に対し主文のとおりこれが支払いを命ずることとする。

この命令は従わないときは金五千円以下の過料に処せられる。

なお、この命令は前示調停で定められた義務に何等の影響を及ぼすものではない。

(家事審判官 長久一三)

参照

調停条項

一、申立人と相手方は本日協議離婚すること。

二、相手方は申立人に対し慰藉料として、金五万円の支払義務あることを認めこれを分割して本日金二万円を申立人に支払い、残額金三万円は昭和三十三年十一月二十九日午前中神戸家庭裁判所柏原支部において申立人に支払うこと、上記金二万円は調停委員会においてその授受を了した。

申立人は相手方に対するその余の請求を抛棄すること。

三、本件調停費用は各自弁のこと。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例